散々からんできたお客が降りてから転倒して怪我。助けるべきか。

とある年の忘年会シーズンの金曜日、会社の無線を受けて飲み屋に迎えに行った。

出てきたのはまっすぐ歩けないような、相当酔った男だった。

何か因縁つけられるのではないかと、かなり嫌な予感がしたが、ドアを閉めて発進しようとしたらやっぱり始まった。

「ワシの家まで。」

「すいません、その、家を教えてもらってもよろしいでしょうか?」

「お前、ワシの家を知らんのか!ワシはいつもお前の会社のタクシーに乗るんじゃ!ワシを知らんとは、お前、ボケか!」

謝って低姿勢で聞き返すと、やっと行き先を言い始めた。

しかし走っていると

「早う、行けーや!」
「今の黄色、行けただろうが!」

「ワシは610円以上、絶体払わんぞ!」

と、文句ばかり言う。610円とは基本料金のワンメーターのことで、あの辺りなら基本料金で行けるか、80円ほどメーターが上がるか微妙な場所だった。

深夜料金の時間帯になっていたが、昼メーターに切り替えて何とか言われた辺りまでワンメーターで来ることが出来た。勝手に昼メーターにするのは本当は違反なのだが、80円で激怒されてもまた嫌なので、そういうことも言ってられない。

金を払ってやっと降りたので、どうにかこの一件は終了。

車から降りた男が、ふらふらと左前方の方に歩いていくのが見える。車を停めたのは家のちょっと手前だったらしい。

すぐにでもこの場を立ち去りたかったが、ものすごく寒い日だったので、嫌だったが一応、この男が家の中に入るまでは見ておくことにした。

男が車の前方3メートルくらいまで歩いて行った時、突然男は身体全体が左に傾き始めた。

まるで棒が横に倒れるかのように身体が一直線になったまま、ふわぁっと左に倒れたのだ。

そして左には民家の壁があった。

ゴキッと、ものすごい音がして、男は左頭を痛打した。そしてそのままズルズルズルッと地面に倒れこみ、そのまま動かなくなった。

普通だったら倒れそうになったらとっさに手をついたり足で踏ん張ったりしそうなものだが、相当酔っ払っているせいか、手も足も出ず、体が一直線になったまま左に倒れたのだ。
酔っ払って倒れるとこういう風になるのか。。

別に助けたくはなかったのだが、もしこのまま放置して帰ってこの男が凍死でもしたら、やっぱりこっちの責任になるんだろうと思うとこのまま立ち去るわけにもいかない。

しょうがないので車から降りてその男に近寄り、

「大丈夫ですか。」

と声をかけてみた。

「ん・・おお。」

と、返事はあった。頭を打った音があまりにもすごかったので、ひょっとして即死しているのではないかと思っていたが生きていた。

「道路に寝ていては危ないですよ。家まで送りますからさぁ立って。」

と言って手を掴(つか)んで起こそうとしたが

「うるせーんじゃ!お前は!」

と、いきなり元気になって怒り出した。

「いや、うるさいと言われましてもね、もしこのままお客さんが死んだらこちらの責任になりますから。

一緒に玄関まで行きましょう。家はこの隣の家ですか?とりあえず立ってもらえますか。」

といって手を引っ張って起こそうとすると手を振りほどき

「うるせえ!ここで寝るから帰れ!」

と言う。そのまま仰向けになってこういう体勢になった。

「いやそんなとこで寝ていては、凍死するか車にひかれるかですよ。一緒に家まで行きますから。」

と言ったのだが、

「しつこいんじゃ、てめーは!殺すぞコラァ!帰れ言うとろーが!」

と、また怒り出したので、もうどうしようもないというか、どうでもよくなったので、

「じゃ、帰ります。」

といってこのままにして帰ることにした。

この場合、本当に凍死したら自分の責任になるんだろうか?

しかし帰れと言って怒るものはしょうがない。今考えれば動画を撮っておくべきだった。

もう放っておいて車に乗って立ち去った。

それからだいたい1時間から1時間半後、たまたまこの近辺のお客にまたもや当たったので、空車になった後、一応気になっていたのでさっきの現場まで見に来てみた。

さっき男が寝ていた場所に男はもういなかった。あれから一応自力で帰ったみたいだ。

しかし今は酔っぱらっているから頭の痛みはそれほどないかも知れないが、明日目が覚めたときには割れるほど頭が痛くなっているだろう。頭を打った時の音はびっくりするくらい大きかったし。

そして自分が何を言ってこちらがどういう対応をしたか、多分、全く覚えていないに違いない。

一応、路上で凍死して自分が警察から事情徴収を受けるとか、そういうことは回避できたみたいだ。もう二度と会いたくないけど。

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