家のない社員

自分は今のタクシー会社は2社目で、現在いる会社ではそういった人はいないのだが、今から10年ぐらい前にいた最初のタクシー会社では、家のない社員が3人いた。

家がないということはすなわちホームレスであり、ホームレスであるが働いている人たちである。

そのうちの1人・Aさんは、ホームレスのキャリアは2年か3年らしく、アパートの家賃を滞納して追い出されてホームレスになったらしい。

Aさんの勤務体系は、2日出勤して1日休みの勤務体系である。その2日間は同じ車に乗るので、2日間は車の中で過ごせる。

初日の勤務が終了すると、車の中で飯を食ってそのまま寝て目が覚めると2日目を始める。

2日間の勤務が終了して休みの日には、公園のベンチで寝たりネットカフェで夜を過ごしたりしてまた出勤して来る。

冬や夏は快適さを求めてビジネスホテルに泊まることが多いと言っていた。2日間は車の中で、1日はさてどうしようかという感じで、その1日は季節によって違ってくるらしい。

話を聞くと、家があったりなかったりの時代を繰り返していて、今はたまたまホームレスの時期に入っているそうだ。またちょっと余裕が出来たらアパートでも借りる可能性はある。


残りの2人、BさんとCさんは両方とも、当時で10年以上ホームレス状態というかなりのベテランだった。

Bさんは、一人で一台のタクシーを長年担当していたので、そのタクシーが自分の家だった。

勤務は昼だけなので、夜になると会社の休憩室でシャワーを浴び、休憩室で飯食ったり酒飲んだりして、担当のタクシーで寝ていた。車の中なので冷暖房があるから一年中暮らせる。

洗濯は会社の洗濯機で下着や服の洗濯をして会社の車庫の片隅に洗濯物を干していた。

タクシーの後部座席の上の方についている手すりに洗濯ロープを張って車内に洗濯ものを干すこともあった。

だがそもそも会社にある洗濯機とは、社内の座席シートを洗うためのものである。

座席シートは、2週間に一回、クリーニングされたものが入って来て新しいものに交換するのだが、それよりも前に、子供が土足で上がったとか、キャリーバッグを座席の上に乗せて車輪の跡をつけられたとか、社内でゲロを吐かれたとか、急遽(きゅうきょ)汚れた時にこの洗濯機で洗って乾燥機にかける。

また、車を拭く雑巾をこの洗濯機で洗う人もいる。しかしこの会社の洗濯機で自分のシャツやパンツを洗っているのは、こういった会社に住んでいる人だけだ。

また、この人は郵便物は会社に来るようにしていて、自分の住所は会社の住所を使っているようだった。

車の中で寝ている間、エンジンかけっぱなしで冷暖房を使っているというのに、こういう状態を10年以上許している会社もかなり温厚な会社ではある。
まさになぁなぁの地方都市ならではである。


それから最後にCさん。
この人は会社の駐車場の隅っこに停めた自家用車(軽自動車)が家だった。勤務が終わるとその車の中に帰っていく。

朝、その車から出た時に自分はたまたま出会うことが多く

「おはようございます!」

と挨拶していた。

その車の中で飯食って酒を飲んで寝るのだが、その車というのは、タイヤ4本に全部植物のツタが絡(から)みついてる状態の車だった。
一体何年、ここに停めっぱなしにしているんだろうかと誰もが思う。

多分、ガソリンもなくエンジンもかからなかったのではないか。

だからこの人は春や秋の気温のいい時はこの自家用車で寝泊まりしていたのだが、夏とか冬など冷暖房が必要な時期になると会社に停めてある車から車を転々としていた。

主に勤務を終了したタクシーに乗り込んでエンジンをかけて冷暖房をかけて酒飲んだり飯食ったりしてそのままその車で寝る。

その車の担当者が出勤して来る前にその車からは出るようにする。

しかし寝泊まりするのはタクシーの中だけではなく、社員の自家用車に勝手に入り込んで同じように寝ている時も多々あった。

会社の駐車場というのが、どこからでも出られる駐車場ではなくて、奥に停めてある車を出そうと思ったら手前の車を動かさなければならないような不便な駐車場だったのだ。

だからみんな自家用車にはカギをつけっぱなしにしていた。

それをいいことに勝手に人の自家用車に乗り込み、エンジンをかけて一晩その車で寝ていた。

やられた方も「あー、今日は俺の車がやられたか。」という感じで特に問題も起こらず、いい会社というかいい社員というか。。

自分がこの会社を退職して10年が経ったが、狭い町なので、いまだにその当時の社員と街中や駅で話すことはある。

自家用車に帰っていたり他の社員の車を転々としていたCさんは亡くなったという話を聞いた。下半身が異様に腫(は)れ上がった病気と聞いたが、病名までは分からない。
やはり人間、ちゃんと布団で寝ないと良くないのだろうか。

会社とタクシーを家にしていたBさんは、いまだに元気で同じ生活をしているらしい。ということは、ホームレス状態が、自分が知っているだけでも20年以上続いているということだ。

Bさんは、自分がこの会社にいるときには仲が良くてよくしゃべっていたのだが、一度Bさんが言っていた。

「家賃とか駐車場代に金かける奴はバカじゃ。そんなモン払わんでも十分生活していけるわ!」と。

なるほど。色んな考えを持った人がいるもんだと勉強になった。

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