絵を売りに来た男。

自分を携帯でよく呼んでくれるホストの人がいる。先日、その彼を乗せた時に聞いたのだが、この間、店(ホストクラブ)に「絵」を売りに来た男がいたらしい。

ほぼ店の開店と同時に現れ、背中には大きなリュックサックを背負っていた。店に入るなり
「私は自分の描いた絵を売って歩いてる者ですが、ちょっとこちらのお店にどうかなと思いましてね。まあ、ちょっと見てもらえませんか?」

そう言って、いかにも重そうなリュックサックを床に降ろした。聞けばこのリュックは25kgの重さがあるという。最初に1枚、絵を取り出した。キャンバスに描いてあるのは、ごく普通の風景画。

「どうかね?この絵は? すごくいいインテリアになると思うんだが。」

ホストの中に一人、絵の好きな人がいて

「はぁ、なるほど。タッチがいいですね。構図もいい感じだし、何か心が落ち着くような絵ですね。」

と、一応誉めてみた。

「おう!分かるかね、君! ちなみにこれはそこそこの自信作ではあるんだが、いくらぐらいすると思うかね?」

いくらぐらいするかと言われても・・有名人ならともかく、全くの無名で、しかも夜、ホストクラブに売りに来るような人である。でも一応の尊敬の念を込めて、

「そうですねえ・・、2万から3万くらいですかね。」と、ちょっと高めに言ってみた。

するとその絵描きさんは、びっくりしたような顔をして、

「2まんから3まんんんん~~!! バカ言っちゃいけないよ君!! この絵は700万だよ、700万っ!!!」

「700万っすか!」
「そう! 残念ながらこれは君らには手が出ないだろう。じゃ、こっちのでどうかな? これだったら50万だ。」

そう言って取り出したのはまたもや風景画だった。

「う~ん・・。50万でもちょっとねぇ・・。」

ホストがそう言うと、

「しょうがないな。まあ、買う買わないは別にしてちょっと何枚か見てみてよ。いいのがあったら・・ってことで。」

そう言って4~5枚の絵を取りだしては順々に見せてくれた。何枚か解説した後、

「それからこれは普段は滅多に見せないんだが、今日は、特別に見せてあげよう。」

リュックの中から、これまでよりは少し大きな絵を取り出した。今度は女性の絵だった。

「ちなみにこれはいくらぐらいすると思うかね?」

「そうっすねえ、一番最初のが700万だったから、これはそれより大きいし・・一千万くらっすかね。」

「一千万~!? バカ言っちゃいけないよ君!! この絵は五千万だよ、五千万っ!!!」

「ほおお~、五千万っすか。」ホストの方もこの頃になると、だいぶ金額的にも慣れてきたようだった。

「それから最後にとっておきの絵を見せてあげよう。私の魂を込めた絵だ。これは絶対に売れないんだが、見せるだけならいいよ。」

そう言って取り出したのはこれまでの中でも一番大きな絵だった。それは人物画で、「燃える男」の絵だった。

「この絵は二億だよ!! 二億!!!君らには手が出ないだろう!!」

何を基準に自分の絵の価値を決めているのか全くの不明だったが、本人が二億と言うんだから二億円なのだろう。

「いや~・・、俺らそんなに金持ってないっすから、今日はいいっすよ。」

と、やんわりと断ろうとすると、

「じゃ、ちょっと最後に聞くが、最初に見せた700万の絵・・ちなみにいくらぐらいだったら買うかね?」

「そうっすねえ・・俺が出せるのは3000円くらいっすね。」

(間髪入れず)
「よし、売った!!」
「え?3000円でいいんすか?」

「今日は特別だ。しょうがない。」

そういうわけで700万の絵を3000円で買うことが出来た。
この後、この絵描きの男は店で飲んで帰ったそうである。

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