まるで泥棒扱い

夕方の18時くらいから20時くらいまでは、飲み屋街に関係したお客さんがほとんどである。

これから飲みに出る人や、夜の街で働く人の出勤、飲み屋のママさんとか従業員などが多く、これ以外の人にはほとんど当たらないような時間帯だ。

19時ごろ、無線の配車で一軒の家に当たった。もう何回も当たったとのある家で、乗るのは、ある飲み屋の従業員の女の人。距離は1メーターで5分くらいで終わる。

普通通り迎えに行っていつもの店で降りた。料金は小銭でいつのまにか、運転席と助手席のコンソールボックスの上に置かれていた。何事もなくこの件は終了した。

それから6時間くらい経った夜中の1時ごろ、無線室から連絡があった。

「19時ごろ〇〇さんをお乗せしましたが、その時に赤い財布が落ちてませんでしたか?」

と聞かれた。そういう問い合わせの電話があったようだ。

降りてから6時間経ってそういうことを言われても・・と思いながら

「ちょっと探してみます。」

と言って車を適当なところに停めて懐中電灯をつけて探してみた。座席は見ただけでないと分かるので、運転席と助手席の真下の部分をのぞき込んでみたり、後ろ座席そのものを取り外して隙間に落ちてないか見てみたり、かなり探したがやっぱりない。

無線室には

「相当見ましたが、ありませんね。」

とマイクを通じて無線で言うと

「了解。そのように伝えます。」

と言われた。

そから15分か20分ぐらいたって再び無線室から呼び出しの音が聞こえてきたのでマイクをとって返事をすると

「さっきのお客さんなんですが、もう一回よく見てくれと言われてるんですが、もう一回見てもらえますか。」

と言う。

さっき十分見たが一応、また見直して「やっぱりありませんね。」と返事をしておいた。

しかし本当にこの車に忘れたのか?

日報を見てみると、この女の人の後に乗ったのは2件続けて自分の携帯に直接かけてきた馴染みのお客さんで、よく知っている人である。仮に財布が車内に落ちていたとしても、この2人は黙って盗るような人には思えない。

落ちてたら「財布が落ちてますよ。」と言ってくれるだろう。

それからしばらくして勤務終了時間がきたので、会社に帰って日報の数字を計算して現金と日報を無線室に出しに行った時に聞いてみた。

「さっきの財布を忘れたとかいう人、電話でどんな感じでした?」

と聞くと

「いや、もう大変でした。ものすごい激怒してて・・。

『私が財布を出したのは、タクシーの中だけで、後はずっと店におったから、タクシーに忘れたに違いないんじゃーっ!

あの運転手、名前、なんちゅうんや!

車内のことは録画してあるんだろうが!車内の映像見せえや!

あの運転手が盗ったに違いないんじゃーっ!

泥棒じゃないか! 警察呼べーや!

泥棒をかばう気か!会社ぐるみで泥棒か!』

という感じで怒鳴りまわして、電話を切るのに一苦労でした。」

とのこと。

なんじゃ、それは。人を完全に泥棒扱い。なんか超むかつく。

車内の映像を見られても盗ってもいないのだから、全くの平気なのだが、疑われると非常に気分が悪い。その日は釈然としないまま帰った。

それから2週間くらいして、よりによってまたあのお客に当たった。

ナビから呼び出し音がなったので応答ボタンを押してみると、パネルに表示された名前はまたあの女。
思わず
「うわっ」
と声が出た。

超嫌々ながらしょうがないのでまたあの家に向かう。
絶対何か言ってくるだろうと予感はしていた。

「あんたぁー私の財布盗ったじゃろうが! この盗人が!」

・・これくらいは言ってくるんじゃないかと思っていたが、家の前に停めて乗ってきた時はすんなりと乗って

「お店まで。」

とただこれだけ。

「着いたら領収もお願いしますね。」

とも言って何か完全に拍子抜けしたような感じだった。

店の前に着いて「ありがとうございました。」といって振り向くと、赤い財布を出して、そこからお金を取り出していた。

あの問題の赤い財布。また同じ赤を買ったのか、それとも財布はあったのか・・と思いながらじっとその財布を見てみたが、どうみても新品には見えない。

使い古されたような財布だった。

あったんじゃないのか・・? 財布。

あれは絶対見つかったと思う。

更に降りる時に

「お世話になりました。」

と、信じられない態度で降りて行った。

しかし、あれだけ財布を盗られたと騒いでおいて、よくいまだにうちの会社にかけてくるな。。
怒っているなら普通、違う会社を呼ぶと思うけど、やっぱり財布はどこかにあったに違いないと思う。

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