常に売上ナンバーワンの運転手のやり方。
自分が現在いるタクシー会社では個人個人の売り上げは発表されていませんが、自分が以前いたタクシー会社では毎日個人の売り上げが表に書かれて張り出されていました。
自分が以前いた会社のことですからもう10年くらい前のことです。
その会社の中で、ほとんど毎日のように売上がナンバーワンだった人がいます。特に金曜日とか土曜日などの全体的に売上の多い日ではほぼ確実に売り上げが一番でした。
ですがその人が優秀なのかといえば、ちょっとはてなマークがつきます。
勤務が終わったらその日の日報を会社に出して帰るのですが、タクシー会社は基本的に24時間営業ですので、管理職がまだいる間であれば管理職の机の上に出して帰ります。
ですが夜の勤務の者のように、勤務の終了が深夜から明け方になると管理職はいませんから無線室に日報を出して帰ります。
その売り上げナンバーワンの人は、夜をメインにやっている人でしたが、朝が近くなって自分の勤務時間の終了が迫ってくるといつも無線室に電話をかけて
「今日トップのやつ、なんぼいっとる?」
と、無線室に現時点での売上トップの数字を聞いていました。
無線室が
「〇万〇千円です。」
と、その時点で売り上げ1位の人の数字を教えると
「よし、分かった。」
と、電話を切った後、自分が負けていたら空(から)で走って売上を打ち込みます。
「空(から)で走って売上を打ち込む」とは、誰もお客さんが乗っていないのにメーターを押して売上を釣り上げることです。もちろんお客さんが乗っていないのですから料金を払う人はいません。上がった売上はその運転手が自腹で払います。
人の売り上げを聞いた後に、それ以上に打ち込んで帰るのですから常に無敵です。毎回のように売上ナンバーワンです。
本人が言うには
「わしは売り上げが足らん時には自分で打って帰るんじゃ。毎月20万円は自分で払っとるでぇ。」
と言っていました。
この人の売り上げは、毎月80万円から90万円ぐらいでした。会社の足切りと言われる、いわゆるノルマが39万円でしたから、それをはるかに超えていてこの会社の中ではいつもダントツで一番でした。
大体売り上げの半分ぐらいが給料ですから、給料の支給総額は40万円から45万円ぐらいです。
その中で20万円も自腹で打ち込んでいたのでは随分と給料も減ってしまいます。
ですがこの人がこれだけ打ち込んでまで売上ナンバーワンに固執していたのは理由があります。
全社の中で売り上げも一番でしたが、事故と苦情も一番でした。
事故に関しては、自分がその人と一緒にいた期間の8年ぐらいの間に15-16回ぐらい起こしています。
車対車や、自転車を跳ねたり、電柱や標識にぶつかったり事故の形態も様々です。
その中でも豪快な事故としては、その人のそれまでの担当車が老朽化で廃車になって新しく新車をもらった時に、その翌々日に結構な事故起こしてその新車を廃車にしたことがあります。
また苦情に関してもぶっちぎりのナンバーワンで、最高記録としては1日に5回苦情の電話が入ったことがあります。
礼儀のレの字もなっていないような感じの人でしたし、 頭にきたお客には、すぐにその場で止まって
「わりゃ、ここで降りーや!」
とすぐにお客を降ろす人でした。その降ろされたお客が再び会社に電話をかけてきて、その降ろされたお客を迎えに会社から別の車が発進したりもしていました。
事故と苦情があまりにも多いので、いつ解雇になるか分からないような状態でしたので、売上だけはどうしても一番でなければならなかったのです。
売り上げが一番であれば会社もそうそうは首にしないと考えていたのでしょう。
ですがそういうわけにもいかず、会社側としてはやはり辞めてもらいたかったようで、最後は横断歩道を渡っている自転車とぶつかってその事が原因で辞めさせられました。
聞いた話によると、同じ県内ではありますが随分と離れた市に引っ越してそこで再びタクシー会社に就職したようです。
もう10年ぐらいは会っていませんが、当時の年齢からすれば現在では定年退職しているはずです。元気で暮らしているんでしょうかね。