走行中に窓をノックされる音が聞こえた。
ある日の深夜、お客を送った帰り、自分は山の中を走っていた。
民家もほとんどないような山道で、前にも後ろにも車はいない。対向車とも当分すれ違っていない。
車を走らせているゴォーッという音だけが聞こえている。50kmくらいで、ぼけっと考え事をしながら運転しているとすぐ右の方から
「コンコンッ」
という音が聞こえた。すぐ右と言えば運転席の窓ガラスである。ここを誰かがノックしたような音が聞こえたのだ。
タイヤで石を跳ねて車体に当たったというような音ではない。下の方からではなく、確かにすぐ右の窓からリズミカルにコンコンッと2回、結構大きな音が聞こえたのだ。
「何、今の?」
ちょっとゾッとした。走っている車の窓をノックするなど普通ではあり得ない。
この後、心霊現象でも起こるのではないかと少しビビりながらも、10分くらい走って何とか街まで帰ってきた。
この時はまぁ、聞き間違いだろうと思ってあまり考えないようにしておいた。
そしてそれから数か月が過ぎて、もうこんな出来事もすっかり忘れていた頃、ある日、会社の同僚の運転手と話していた時、その彼が
「不気味な話、したろーか?」
などと言い出した。話を聞いてみると
「この間、山の中の交差点で信号待ちしとったら、いきなり運転席の窓をコンコンッてノックされてのぉ。びっくりして横見たけど誰もおらん。
大体、その交差点にはワシ1台しか停まってなかったんよ。ワシ以外、車も人も誰もおらん。何かゾッとしたわ。」
あー、それって自分と全く同じじゃないか。もちろん自分もあの時のことを話したが、他にも同じような経験をした人がいるとはびっくり。
やっぱりあの時のノックの音は本物のノックの音だったに違いない。そういう現象ってあるのかも知れない。