近いからと乗車拒否するとこういう目にあう。

夜の繁華街では、道路のあちこちにタクシーがずらっと列を作って並んでいる。あれらは一見無造作に並んでいるように見えても、一応はルールがあって、それぞれの列の先頭の位置と最後尾の位置が決まっている。

最後尾まで車が並んでいたら、その列にはもうそれより後ろには車を停めてはいけないのだ。別の停められる列を探さなくてはならない。

誰が定めたルールかは分からないが、だいたい列の先頭は十字路か、大きなビルの入り口になっている。先頭というだけあって、やはり人が乗る確率は先頭からの場合が圧倒的に多い。

そして一台乗車になって抜けて行くと、順次後ろの車から前につめていく。

あるヒマな日の夜(と言っても毎日ヒマだが)、飲み屋が雑居している大きなビルの前にタクシーが列を作って並んでいた。一台、一台と実車(じっしゃ)になっては抜けていくが、その頻度はあまりにものろい。

ある運転手は、その列に並んで1時間かかってやっと先頭になった。そして先頭になってから更に1時間が経過した。ようやく若い女の子が3人ほど近づいて来たのでドアを開けると乗りこんできた。

「どちらまででしょう?」と聞くと

「並木通りのローソンまで。(仮名)」と言う。

そのローソンはここから400mくらいしか離れていない、あまりにも近い場所にある。もちろん1メーターの610円。

ムカッときた運転手は、
「すいませんが、すぐそこなんで歩いてもらえますかね。私はこの列に並んで1時間経ってようやく先頭になって、先頭になってから更に1時間待ってるんですよ。それで610円じゃ、ワリにあいませんから。」

と言って、いったん乗ったものをドアを開けて車から降ろした。車から降ろされたお客は、今度はすぐ後ろの車に乗り込んだ。その後ろの車もたまたま同じ会社のタクシーだった。この車は拒否はせずに、乗せて発進した。

だが、お客がさっきあったことを喋ったのだろう。再びこの列に帰って来たこの運転手は怒りまくっていた。

車を列の最後尾に停めるとすぐ車から降り、この列の常連である、他の会社の運転手にもさっきあったことを話し、全部で5~6人の集団となってこの先頭の運転手に詰めよった。

「お前、近いからというて、いったん乗せたものを降ろすとはどういうことじゃ!」
「近いところはみんな他のモンに行かせる気か!」
「お前、いつもそんなことしとんか!」

「お前みたいなのがおるから乗客が減るんじゃ!」
「あの女の子はもう二度と、うちの会社には乗らんだろう!お前のせいじゃ!」
「このクソボケが! わりゃちょっと降りてこんかい!」
「もう、ここには来るな、ボケ!」

明らかな乗車拒否ということで、他の運転手の怒りはすさまじく、すぐに会社の管理職へも電話で伝えられた。

この運転手が会社へ帰ると、すぐに係長と部長が近寄ってきて、
「事情を聞こうか。」ということで別室へ呼ばれていった。

しかしこの運転手が言うには

「しかしですね、2時間くらい待ってて近い所を言われれば、誰だってカーッとなるでしょう。」

とか

「別に拒否したわけじゃないんですが、優しく言ったつもりです。私は列の先頭で1時間くらい待ってて・・、と事情も説明したんですが。」

という調子で、まるで反省の色がない。

しかしどこでどれくらい待ってたということが、お客に対して事情を説明したことになるんだろうか。

この後、部長からコッパみじんに怒られまくり、数日後に行われた全体研修会の時でも、名前は伏せられたが「こういうことをした社員がいる」と全員の前で発表され、さすがに今では反省をしているようだ。

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